2021年10月24日

展覧会紹介⑤:徳廣秀光さんによる「木口木版画」制作の道具

当館で開催中の展覧会「あなたの星の王子さま」情報の5回目です。

引き続きCYAPTER4「大切なものは目に見えない」より、

版画家・徳廣秀光(とくひろひでみつ)さんによる「木口木版画(こぐちもくはんが)」の道具をご紹介します。

 

徳廣さんは、高知市内で約30年間、木口木版画作品の制作に取り組んできました。

近年の徳廣さんの作品はこちら!

「シンドロームX 閉ざされた世界(Ⅲ)」

通常の木口木版画作品は、20㎝四方のものでも大きい方ですが、こちらは80㎝を超える超大作!!

高知国際版画トリエンナーレ展でも入賞されたシリーズの作品です。

 

しかし、

このような紙に刷られた作品は通常の展覧会で見ることができますが、

版画制作には欠かせない「道具」はあまり見る機会はありません。

本展では、普段の展覧会では見られない「道具」にスポットを当て、紹介しております!

 

その前に「木口木版」について簡単にご説明。

「木口木版」とは、ツゲやツバキなどの硬い木を輪切りにした木材を「木口」と呼び、

それを版にして作られた版画の手法のことです。

みなさんが小学校で体験する木版画は「板目木版」と呼ばれており、

‘版を彫って紙に刷る’という工程は同じですが、版木の堅牢さから、

板目木版よりも緻密な表現ができるという特徴があります。

また、彫るときに使う道具も、彫刻刀ではなく‘ビュラン’という特殊な道具を用います。

「ビュラン」 ※木口木版のほか、銅版の彫りにも使われています。

 

 

さて、前置きが長くなってしまいましたが、

ここから、徳廣さんがつくる道具を紹介していきます。

木口木版画に使われる「版木」

 

直径約33㎝のこの版木は、なんと樹齢約350年のツバキの大木からつくられています。

坂本龍馬も未生、ペリーも来航前の江戸時代中期頃から生き抜いてきた貴重な樹木。

その、歪だけれども味のある輪郭や、樹洞(木に空いた穴)なども生かした絵柄が加わり、

「版木」という新たなものに生まれ変わりました。

(一見、この版木自体も作品なのではないかと思ってしまいますが、徳廣さんは道具であると話しています。)

 

版木を少し拡大してみましょう。

拡大した「版木」(部分)

 

すご~く細かい、有機的な模様の点描・線描が施されています。

彫る前の版木の表面には墨汁を塗り、彫った部分を見分ける工夫が。

また、仕上がりを確認したいときは、溝になっている部分にリンシードパウダー(超微細な白い粉)をかけて、

彫った部分のコントラストをはっきりとさせます。

 

始めにご紹介した作品「シンドロームX 閉ざされた世界」は、版を12枚も組み合わせているそうです。

作品「シンドロームX 閉ざされた世界」の一部(拡大)

 

つなぎ目が見つけられません…

徳廣さんご本人も、完成後はどこを繋いだのかわからなくなるそうです。

 

全工程を想像すると、1作品作り上げるだけでも気が遠くなってしまいますが、

徳廣さんはこのような作品をこれまでに数百個も作り上げています。

 

その他本展では、ツバキの大木が1枚の版木に変るまでの工程や、版木以外の道具も紹介中。

 

可能な限り自作する徳廣さんの、情熱やロマン溢れる道具の数々…

会期も残り少なくなってきましたが、ぜひ実物をご覧いただけますと嬉しいです。

 

 

島崎